2013年08月06日

大阪府警堺市誤認逮捕事件

 堺市で起きた窃盗事件で、大阪府警北堺署が無関係の男性を誤認逮捕した。弁護士の指摘があるまでアリバイに気付けず、不当に勾留された期間は85日間に。パソコン遠隔操作事件での失敗の教訓は生かされず、捜査では供述内容を吟味しないばかりか、初歩的な証拠の確認さえ怠っていた。

 ▽矛盾

 「決めつけの捜査を見直してください2 件」。7月31日午後、北堺署。謝罪する署幹部らを前に男性は静かに語った。「家族や子どもの気持ちが分かりますか」。男性の妻は泣き続けた。

 事件は1月13日、堺市西区のガソリンスタンド(GS)で発生した。車上荒らしの被害品だった給油用カードが使われ、ガソリンが盗まれた。北堺署は、GSの防犯カメラの映像などから窃盗容疑で男性を逮捕。大阪地検堺支部が起訴した。

 捜査の矛盾を指摘したのは男性の弁護士だった。車の走行実験の結果などを基にアリバイを指摘。地検堺支部は公判期日と男性の勾留の取り消しを請求したが、拘束期間は85日間に及んでいた。

 ▽ど素人

 男性を容疑者と断定した根拠は 脆弱 (ぜいじゃく) だった。

 犯行時間とされたのは午前5時39分。GSの給油記録でカードが使用された時刻だ。防犯カメラでは同42分に給油する男性の姿が写っていた。北堺署は「カメラの時計は給油記録よりも3分進んでいる」と確たる根拠もなく判断。防犯カメラの時間は実際には約8分ずれていたとみられるが、いずれの時計も標準時との誤差を確かめることはなかった。

 アリバイを裏付ける決定的な証拠も入手しなかった。GSから約6キロ離れた自動料金収受システム(ETC)に、男性の車が通過した記録があった。時間は5時40分。1分で到着するためには時速360キロで走行しなければならない。周辺の自動車ナンバー自動読み取り装置(Nシステム)の履歴も調べなかった。

 犯人性に思いをめぐらすこともなかった。十分な収入があり、当時は妻と子どもを車に乗せ、スキーに行く途中だった男性。「そんな人が事件を起こすか。普通に考えれば違う。まるでど素人だ」。当たり前の捜査をやってさえいれば、誤認逮捕は防げたと捜査幹部は認めざるを得なかった。

 検察も、府警の描いた筋書きをうのみにした。「チェック機能が働かなかった。別の視点が必要だった」(検察幹部)

 ▽反省

 府警は昨年8月に遠隔操作事件で誤認逮捕を起こしたばかりだった。

 「証拠と供述内容を分析し、否認の場合には特によく聴取する」。事件の検証で再発防止をうたったのは、客観証拠としたパソコンの解析結果などに頼りすぎ、供述を軽視したことへの反省からだった。

 だが今回の窃盗事件でも、同じことが繰り返された。GSでは普段から妻が現金を渡し、男性が支払いを済ませておつりを返す―。妻は説明し、男性は身に覚えがないと否認したが、聞き入れることはなかった。

 斎藤司 ・龍谷大准教授(刑事訴訟法)は「警察と検察が支配する一方的な捜査のあり方を見直す時期。取り調べは第三者の目を生かした制度にすべきだ」と指摘した。(共同通信、2013.8.5)


 ずさん極まりない捜査と言うほかない。警察と検察には、猛省と徹底検証を求めたい。

 堺市のガソリンスタンド(GS)で1月に起きた窃盗事件で、大阪地検堺支部は男性会社員の起訴を取り消し、男性に謝罪した。大阪府警も誤認逮捕だったことを認めた。

 男性は、事件と無関係だったのに、85日間も勾留され、休職を余儀なくされた。取り調べの際には、捜査員から何度も呼び捨てにされ、「あなたは普通じゃないんですよ」などと侮辱もされた。重大な人権侵害である。

 誤認逮捕の最大の原因は、男性を犯人と決めつけた見込み捜査に尽きると言っていい。

 駐車中の車から盗まれたカードが、GSで使われていた。府警が防犯カメラを調べたところ、ガソリンが販売された時刻に男性の姿が映っていた。府警はこの画像を逮捕の決め手とした。

 ところが、弁護人の調査で、防犯カメラの時刻がずれていたことが判明した。犯行があった時刻の1分後、男性は約6キロ離れた高速道路の入り口を乗用車で通過していたことも明らかになった。

 男性が犯行に及ぶのは事実上、不可能なことになる。無実を証明するアリバイだ。府警は基本である裏付け捜査を怠った。弁護人が調査するまで誤りに気づかなかったという。あきれるばかりだ。

 一つの証拠を過大評価して、誤認逮捕する。府警は昨年のパソコンの遠隔操作事件と全く同じ過ちを犯した。IPアドレスを重視し過ぎて、パソコン所有者のアニメ演出家を誤って逮捕した。苦い教訓がまるで生かされていない。

 関与を否認する供述に耳を貸さなかった点も共通する。

 検察の責任も重い。警察の証拠をよく吟味せず、男性を起訴した。警察の捜査に対するチェックが機能していない。

 保釈請求にも反対し、家族との接見も一時、禁じた。弁護人がアリバイを証明しなければ、不当勾留はさらに長引いただろう。

 今回、男性は一貫して犯行を否認した。だが、無実の人が長期の身柄拘束により、罪を認める供述をしたケースは少なくない。

 否認した被告を釈放しない「人質司法」は、冤罪(えんざい)を招く大きな要因である。

 身柄拘束の在り方については、刑事司法制度の見直しを進める法制審議会の部会でも議論されている。ルールがあいまいとの指摘があるからだ。今回の事件を、人質司法を見直す契機とすべきだ。(読売新聞、2013.8.2)


 大阪地検堺支部の徳久正支部長は30日、大阪府警北堺署に窃盗容疑で誤認逮捕された男性と堺市の庁舎で面会し、誤認逮捕を見抜けずに起訴したことや85日間勾留したことを謝罪した。同席した弁護人の赤堀順一郎弁護士によると、男性は「こんな悲しいことが二度と起きないように職務を全うしてください」と話したという。

 徳久支部長は「間違って起訴してしまい、申し訳ありません」と述べ、29日の起訴取り消しまでの経緯を陳謝。盗難カードでガソリンが盗まれる事件が起きたスタンドの防犯カメラの撮影時刻が正確な時刻から約8分ずれていたのに、北堺署が撮影時刻をうのみにして男性を逮捕し、担当検事も同署の捜査を十分にチェックせずに起訴したと説明した。

 男性は「名誉回復のために公開の法廷で無罪判決を求めてほしい」としていたが、検察当局は無実が明らかな市民を起訴したまま、裁判所に出廷させるべきではないと判断した。地検による起訴取り消しを受け、大阪地裁堺支部は裁判の手続きを打ち切る公訴棄却を30日に決定した。

 府警も北堺署の小坂義之署長が男性に会って謝罪する方針を決めている。(朝日新聞、2013.7.30)
posted by リュウノスケ at 21:09| Comment(0) | TrackBack(0) | ニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする